経営理念の作り方と浸透させる方法

理念経営で京セラやJAL再建などを実現してきた経営の神様 故・稲盛和夫氏

経営理念は、会社を経営するにあたって最も重要なものであると多くの経営者が語っています。

経営理念とは、なぜ・何のために(誰をどう幸せにするために)、その事業を行うのかの事業活動の基本的な考え方や思い(基本方針や哲学)を表現したものであり、事業活動を行うにあたっての基本方針(中心軸)となるものになります。

<参考図解>

倫理経営 経営の縦軸横軸

経営とは、普遍的・本質的な「理念」(事業の目的)を縦軸として持ちながら、時代や事業環境の変化に適応しながら、事業を成長させていく活動になります。

横軸は、時代によって変化するものになります。

事業計画や経営手法(やり方)になってきます。

インターネットが普及し、商品や情報が溢れる中で、商品の機能的な価値だけで差別化することが難しくなっています。

顧客も商品を購買意思決定する判断基準として「提供者がどんな思いでそのビジネスをしているのか、どんな思いでその商品を提供しているのかといった『思い』に共感できるかどうか」の感情的価値の重要性が高まっています。

そのため、顧客を創造していくためにも、どんな考え方や思いでその事業を展開しているのかという「経営理念(熱い思い)」や「歩み(ストーリー)」を明確にして伝えることで、感情的価値を訴求することの重要性が高まっています。

商品の「機能的価値」でライバルと差別化が難しくなる中、理念や熱い情熱、顧客への思いやりなどの「感情的価値」でライバルと差別化することが、差別化する効果的な方法にもなってきます。

経営理念の作り方や事例をご紹介します。

経営理念(理念経営)とは?

経営理念とは、なぜ・何のために(誰をどう幸せにするために)、その事業を行うかの、事業活動の基本的な考え方や思い(基本方針や哲学)を表現したものであり、事業活動を行うにあたっての「中心軸」(縦軸)となるものになります。

創業以来変わることのない「創業理念」が最上位概念としてあります。

次に、企業理念(経営理念)は、時代や事業環境に応じて変化させることもあります。

近年、経営理念は、「MVV」で整理するのが一般的となっています。

MVV

  • ミッション:会社の「使命」や「存在意義」。
  • ビジョン:未来のありたい姿「未来像」。
  • バリュー:ビジネスを行う上で大事にしたい「価値観」や「行動指針」。

経営理念を作るべき理由

会社経営において最も大切なことは「経営理念を創ることである」と多くの経営者が語っています。

経営理念を創るべき理由であり、経営理念を作るメリットを紹介します。

①目的意識(ぶれない軸)を持つことができ、やる気や成果を向上できる

経営理念があることで、「誰のために、何のためにその仕事をするのか?」という目的意識を明確にすることができます。

目的意識を持つことで、仕事のモチベーション(やる気)や集中力が高まり、仕事の成果を高めることができます。

また、経営理念は、各種意思決定(思考)の判断基準となり、決断や行動のスピードが速くなります。

②関係者と共通言語を共有することでチームワークが良くなる(連携力が高まる)

経営者、社員、パートナー、顧客、株主など事業の関係者と経営理念を共通言語として共有し、軸を合わせることができます。

「なぜ、何のためにその事業を行っているのか」の目的を共有しながら、関係者がそれぞれの個性(強み)を発揮し、効果的に連携することで事業の推進力が高まっていきます。

③良質な顧客獲得や社員採用に繋がる

経営理念に共感する質の良い顧客や意欲の高い社員を採用しやすくなります。

前述の通り、ライバル(競合他社)と差別化するためにも、経営理念を明確にして伝えることが重要になります。

これまでの歩み、その商品が生まれた背景、どんな実績を積みあげてきたのか、どんなこだわりをもっているのか、そしてこれから、どんな未来を創っていきたいのか。

こうした経営者の理念(思い)を伝えることが、重要になってきています。

顧客や社員もそこを重視しています。

ぜひ経営理念を明確にし、伝えて、ファン創りしていきましょう!

経営理念の事例紹介

経営理念の参考となる良質なものをピックアップしておきました。

各業界のトップ企業は、やはり良い経営理念を創り、運用しています。

経営理念を創る時、参考にすると、アイデアがでやすくなります。

<製造業>
・京セラの経営理念

<ホテル業界>
・リッツ・カールトンホテルの経営理念
・帝国ホテルの経営理念
・アパホテルの経営理念

<サービス業界>
・スターバックスの経営理念
・IDOM(ガリバーインターナショナル)の経営理念
・TBCの経営理念

<靴業界>
・マドラスの経営理念
・Re.museの経営理念

<コンサルティング業界>
・マッキンゼー&カンパニーの経営理念
・博報堂の経営理念
・売れる広告社の経営理念
・当社プロフェッショナルコンサルティングの経営理念

経営理念の作り方

STEP①:他社の参考事例を調べる

ゼロから経営理念を作ろうとしても、どんな言葉でまとめればよいかわからず効率が悪かったりします。

他社のものを参考にすることで、アイデアが出やすくなりますので、まず、参考になる他社事例を情報収集します。

色んな会社の経営理念が、以下のサイトにまとまっています。

http://www.keieirinen.com/40collection/
https://visionguide.jp

STEP②:経営理念を書き出す

経営理念の構成要素(フレームワーク)を明確にします。

他社事例を調べるとわかりますが、経営理念の考え方(定義の仕方)など、かなりバラバラで、経営理念の構成要素も各社各様であったりします。

そんな中で、経営理念の基本となる構成要素を「MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)」で整理するのが、整理しやすく、活用しやすくておすすめです。

「ミッション」「ビジョン」「バリュー」を、まず思いつくまま書き出していきます。

ふせんを使うと書き出しやすく、整理もしやすくておすすめです。

ミッション:目的

・この会社、事業の目的は何か?どんなことを実現したいのか?
・どんな人にどんな幸せを提供したいのか?どんな方法で喜ばせたいのか?
・社会にどのように貢献したいのか?

ビジョン:未来のありたい姿

「関係者軸」と「時間軸」で未来のありたい姿を書き出す。

<関係者>
・自社(会社や従業員)の理想の姿
・顧客の理想の姿(状態)
・協力会社の理想の姿
・社会の理想の姿

<時間軸>
・5年後にどうありたいか?
・10年後にどうありたいか?
・100年後にどうありたいか?

バリュー:価値観や行動指針

・大事にしたい価値観は何か?
・行動の原理原則は?

【参考】ふせんを使って効果的にアイデアを抽出&整理する方法(ナレッジファシリテーション)

STEP③:やりたくないことを書き出す

事業を展開する上で、「やりたくないこと」を書き出すことも大事な価値観を明確にするのに有効です。

2と同様に、ふせんを使って書き出し整理するのがおすすめです。

STEP④:経営理念をまとめる

ミッション・ビジョン・バリューの書き出したものから、腹落ちする重要なものを絞り込んでいきます。

文章も理解しやすく覚えやすくするために、情報量を減らして、シンプルに短くまとめていきます。

ミッションの文章量は、一行から数行程度にします。

ビジョンは、「自社」「顧客」「関係者」など分類ごとに整理することも可能です。

バリューは、3個〜5個程度に絞り込むと、関係者が常に意識しやすくなります。

行動指針(行動原則)は、会社によって20個〜30個と多いケースもありますが、重要な価値観は3つ〜5つ程度にシンプルにして、行動指針は、多少多くしても良いかなというのが、私のおすすめのやり方です。

行動指針は、「帝国ホテルの10則」「ガリバーの信念11か条」のように、10個程度の何か条とかでまとめる方法も良いかと思います。

以下は、経営の神様のひとり京セラの稲森さんが提示されている「リーダーの役割10か条」や「6つの精進」です。

STEP⑤:経営理念を定期的に見直し、改善する

経営理念は一度作って終わりではありません。

必要に応じて、見直しを行い、改訂していきます。

経営理念の作り方の重要ポイント

  • 経営幹部や主要な社員など関係者を巻き込みながら、一緒に創り上げていく。
  • 教科書的・形式的な言葉ではなく、本心が込められた熱意が湧いてくるもの、ワクワクするもの、腹落ちして納得感のあるものにする。
  • シンプルな言葉で短くまとめる。
  • 誰でも理解でき覚えられる「わかりやすい内容」にする。
  • 経営理念を常に確認できるように、壁に貼ったり、手帳やクレドカードで常備できるようにする。

経営理念を浸透させる方法

セミナー講師
経営理念は作って終わり、飾っておくだけでは意味がありません。

経営者や社員など関係者に腹落ちさせて、経営理念を中心軸として日々意識しながら仕事に取り組むように運用することが大事になってきます。

そのために、経営理念を浸透させていくことが大切になってきます。

経営理念を浸透させるには、時間や努力が必要ですが、経営に欠かせないものなので、ぜひ実践していってください。

「1.理解」「2.実践」「3.評価」「4.改善」の4ステップで重要な施策やポイントを解説していきます。

STEP①:経営理念を理解する


・経営者からメッセージする。
・クレドカードや手帳等で日々確認する。
・HPに公開する。
・経営理念を理解する勉強会を開催する。
・実践事例を社内報、報告会等で共有する。

STEP②:経営理念を実践する

・朝礼で経営理念を唱和する(実践の決意を誓う)。
・経営理念を日々意識しながら、仕事で実践する。
・上司は部下の実践度合いをチェックし、必要に応じて指導する。

STEP③:経営理念の浸透を評価する

・成果報告する。
・賞賛する(褒める)。
・人事評価に活用する。

STEP④:経営理念を改善する

・経営理念を必要に応じて改訂する。
・経営理念に基づいた人材戦略(採用・育成・評価等)を見直しする。
・経営理念を浸透させるための改善施策を検討する。

経営理念の作り方と浸透させる方法のまとめ

経営理念の活用を重視して経営することを「理念経営」といいます。

経営の神様とよばれた松下幸之助の教えのもと、多くの経営者が実践し、日本の多くの成功企業が生まれました。

「理念経営」は、日本の持つ優れた経営手法、強みでした。

時代が変化する中、欧米から合理主義や成果主義が導入されたり、雇用形態が多様化し終身雇用制度がなくなり、家族経営のような形態でなくなる中で、「理念経営」もおきざりにされていき、日本企業は軸を見失い、弱体化していきました。

ところが昨今、欧米から「MVV」「パーパス経営」など、いわば日本に古くからある「理念経営」の考え方が最新経営手法として導入され、注目されています。

なので、欧米の新しい経営手法として「MVV」や「パーパス経営」など小難しい理論を学ぶより、日本に古くからあり実践されてきた有効な「理念経営」を学び実践した方が、日本人には合っていて実践しやすく、成果もでやすいと私は考えています。

「理念経営」は捉え方が抽象的で、言葉の定義や運用方法などがバラバラで、しっかり理解して運用しないと形骸化されてしまうというリスク(デメリット)もあります。

そこで、今回、私がどんな会社でも運用しやすいソリューションとして標準化しておきました。

ぜひ「理念経営」を実践し、その効果を実感していただければ幸いです。